2014.07.21
スポーツの分野を問わずメディカルチェックは今やアスリートには必須事項です。今回は、どうしてメディカルチェックが必要なのかを解説いたします。
―― 血液検査の重要性
代表的なメディカルチェックには、以下のような検査があります。
1:血液検査
6:聴診
2:尿検査
7:触診
3:体組成検査
8:視診
4:自律神経機能検査
9:眼科検査
5:問診
10:聴覚検査
病気を探す目的ではないので 単純な健康診断とは少し違います。
上記の検査項目で消化器系の検査がありませんが最近では便から腸内細菌叢がわかる検査もあります。
検査費用が2万円ほどと高額なため普及していませんが 腸のコンディショニングはアスリートにとって大切で今後、注目されるかもしれません。
アスリートに対する血液検査はドーピング検査でも原則として行われていませんが、コンディショニングのためには大切な検査の一つです。
アスリートへの血液検査は、病気の患者様への血液検査とは少し異なります。
アスリートにとっては赤血球の数や大きさなど酸素運搬能力に関わる項目が重要なので特に貧血検査は大切です。女性アスリートは鉄分不足が引き起こす鉄欠乏性貧血が少なくなくこの状態に陥ると大きなパフォーマンス低下となってしまいます。
また、打撃系格闘家が試合中の流血によって 対戦相手が肝炎ウイルスのキャリアの場合、血液が身体に入り B型肝炎ウイルス感染し急性肝炎を発症し長期入院するといったトラブルも現実に起こっています。海外の選手との対戦ではAIDS感染リスクも否定できません。
場合によって知らないうちに進行し命を落とすこともあるのです。
血液感染のリスクとして考えられる 梅毒、C型肝炎、HIV抗体(AIDSウイルスの感染有無)、B型肝炎ウイルスキャリアに関する項目はコンタクトスポーツにおいては是非、出場者全員に検査を受けていただきたい項目です。
しかし、現状では検査費用もかかりアスリートや大会主催者にとって大きな金銭的負担になるため実施されていないのが現状です。
しかし、打撃系格闘技には血液感染リスクの可能性があることを理解して知識として知っていることは大切なことです。
アスリートも指導者も血液を介した感染症が存在する事実を必ず知っておく必要があります。不幸にも感染症に罹ったアスリートはただちに適切な治療が必要となります。
ボクサーのCT検査が義務付けられているように、血液検査を義務づければ試合中の肝炎ウイルス感染などはなくなるでしょう。
今後も専門医として、アスリートの健康管理、パーフォーマンスを上げるためのメディカルチェックを提唱していきたいと思います。
―― 3つの先端医療
メディカルチェックはアスリートを不測の事態から守る、コンディショニングにとって重要ですが、コンディショニングとして先端医療としまして私は特に次の 3つをお勧めします。
1:自律神経機能検査
2:血液機能分析
3:必須ミネラル&有害重金属検査
メディカルチェックは原則としまして専門医が医学的根拠に基づいて行う検査です。
先端検査システムが短時間で身体の状態を具体的に血液検査で発見できなかった異常や問題点を明確にすることが出来ます。
アスリートにとって血液検査で異常が出現することは稀ですが、上記の3つの検査では健康上の異常ではなくコンディション上の問題点まで具体的にわかる優れた検査です。
残念がら上記の3つの検査が全て実施できるのは 現在のところ 当施設のみになりますが、2020年東京オリンピックを開催する日本にとって多くの施設で実施されるよう普及することを願っております。
1:自律神経機能検査
これまでも何度も解説してきましたが、アスリートのソフトウエア能力を測定する検査です。身体の全ての臓器、組織の無意識にコントロールする能力を検査しますのでアスリートのコンディション状態が定量評価できます。
オーバーワークやメンタルトラブルも事前に察知でき、バイオフィードバックトレーニングシステムで対処可能です。
心と身体を繋ぐ 自律神経こそ アスリートのパフォーマンス向上を握るカギです。私が非常勤講師を務めます 順天堂大学医学部 小林弘幸研究室でもアスリートにおける自律神経機能検査、向上に関するトレーニング法の先端研究を進め 新しいエクササイズの開発を行い大きな成果を出しています。
当研究室では、石川遼選手の元専属トレーナーとして活躍され現在、50名以上の国内のトップアスリートのフィジカルトレーニング指導を行う 仲田健トレーナー、ツアー2勝でゴルフ指導者としても評価が高い 横田真一プロも私どもの研究室でスポーツ医学の研究に従事されています。
横田真一プロは多くのツアープロの自律神経機能検査を行い解析しそのデーターを基にゴルフ指導を行っています。
まさしく、エビデンスがあるトレーニグ指導です。
根性指導では到達できない科学トレーニングの領域です。当研究室で多くのトップアスリートの自律神経機能検査を実施し、その結果を解析したところ驚くべきことがわかってきました。
1:一般の健常人の自律神経機能検査結果は80%以上の方が、交感神経レベルが副交感神経レベルに比較して高い。
2:一方、トップアスリートの80%以上は 副交感神経レベルが交感神経レベルより高い。
3:トップアスリートは自律神経のトータルパワー(自動車の性能で言うと排気量に相当)が健常人より高い
つまり、トップアスリートは自律神経機能レベルが全体的に一般人と比較して高く、特に副交感神経レベルが高いということです。
これは、極限の緊張の中でもリラックスできる能力がトップアスリートには備わっていることを示します。
F1レーシングドライバーで2009年 年間総合王者のジェンソンバトン選手の自律神経機能検査を行いましたが、交感神経、副交感神経レベルいずれも高く ほぼ同じとバランスがとれていました。
プロゴルファー元賞金女王 横峯さくら選手の自律神経も高いレベルで副交感神経レベルが交感神経より高い検査結果でした。
アテネオリンピック 男子ハンマー投げの金メダリスト 室伏広治選手もアテネオリンピック直前に自律神経機能検査を実施させていただきましたが極めて高いレベルで副交感神経優位でした。
彼らに共通することは、極限の緊張する状況下においても 生理学的に自分の身体の状態をベストな状態にコントロールする能力が優れていることです。
室伏選手が私に アテネオリンピック前は毎月1回 バイオフィードバックトレーニング(自律神経の呼吸法によるコントロールするトレーニング)を受けるために渡米していると話されていました。
ウエイトトレーニングで筋力パワーをアップするより自律神経レベルを向上させる方がアスリートにとって有利に働くことも少なくありません。
残念ですが、自律神経機能トレーニング指導を本格的にトップアスリートへ行えるのは現在、私どもだけですので今後の普及に努めたいと考えています。
2:血液機能分析
指の先端から血液を数滴採取して 高解像度の顕微鏡で血球の状態や血漿に含まれる内容成分、凝固血液のパターンによる身体の酸化状態の把握ができる優れた身体酸化状態ライブ検査です。
この検査のメリットは、リアルタイムで身体の酸化状態や栄養状態やコンディショニング状況がわかる点です。欠点は、スポーツ現場では検査困難、検査担当専門医が極めて少ないことです。検査技術習得にかなりの時間と労力が必要なためこの検査を行う専門医は極めて少なく一部の研究者が行うにとどまっています。
3:必須ミネラル&有害重金属検査
ミネラルは身体の重要な構成成分で、代謝調節作用始めいろいろな生理機能に欠かせません。特にアスリートは一般の人に比べ、5~10倍以上必要とします。
また、ミネラル不足で様々な障害が発生します。カルシウムが不足すると、筋肉の収縮や出血時の血液凝固能に影響が出て、マグネシウムが不足するとカルシウムやリンと同様に骨や歯の強度維持が困難になったり、エネルギー代謝に影響したりします。亜鉛は細胞分裂の促進、組織修復する働きを持ち、セレンは強い抗酸化力を発揮するミネラルです。アスリートにとってベストコンディションを維持するために、各ミネラルが不足にならないように注意する事が必要です。
しかし、ミネラルも過剰摂取は逆効果です。例えば、カルシウムの過剰は高血圧、動脈硬化、腎障害、泌尿器系結石のリスクを高めます。
マグネシウムを摂りすぎると下痢、筋力低下、心疾患などの原因になり、カリウムが過剰になると筋力低下、麻痺、知覚障害、不整脈などの症状の危険性があります。
このように全てのミネラルは『バランス良く保つ事』が重要です。そのため、ミネラルの状況を測定・把握する事で、過剰摂取を避け、不足を補うことでコンディション管理の精度を高めることが可能になります。アスリートのサプリメント摂取の基準としても重要です。
● 有害金属
有害金属は水銀、アルミニウム、ヒ素、鉛、カドミウム等の総称で、体内に入ると体にとって必要不可欠なミネラルの働きを阻害し、様々な障害を引き起こします。
例えば、アルミニウムはアルツハイマー病の原因となったり、ヒ素はその強い毒性から酵素の働きを阻害します。カドミウムは腎障害、骨軟化症、水銀は腎障害をもたらし、鉛は消化器、腎臓、精神神経系の障害や高血圧、動脈硬化の原因物質となります。
● ミネラル測定の重要性
先にも述べた通り、ミネラル摂取で大事なことは、適量を維持する事です。不足すると体に様々な障害を起こしますが、そのミネラルも過剰な摂取によっても弊害を起こします。むやみにサプリメント等で補充するのではなく、「足りないものを適量補う」事が重要です。そのためには、体内のミネラル検査して状態を把握することが重要です。
● 体内ミネラルの測定方法
従来は、毛髪を切り、検査センターへ送付すると約2週間で必須・参考ミネラルや有害金属の状態がわかる毛髪ミネラル検査が行われてきました。ただしこの検査は、現在の状態では無く2~3ヶ月前の状態を表し、この検査で得られる結果は排出されたもので身体の内部の状態ではないという欠点があります。
これ以外にも、蓄尿(1日分又はは日分の尿を溜める)や爪による検査もありますが、何れも検査センターへ送り、手間も日数がかかりリアルタイムでの検査ではありません。
世界最新鋭、その場でわかる『体内有害・必須・参考ミネラル測定解析システム:OligoScan(オリゴスキャン)』が 開発され 私のクリニックでは国内で最も早く導入し国内で唯一のアスリート外来でアスリートのコンディショニング、サプリメントのコンサルテーションに使用しています。
『OligoScan』は、ルクセンブルクなどで 12年の歳月をかけて開発された体内有害・必須・参考ミネラル測定解析システムです。
手のひら4か所をスキャンするだけで、体内に蓄積している有害金属14元素と、必須&参考ミネラル20元素を測定し、その場で測定結果が得られます。
このように先端システムを駆使しアスリートのパフォーマンス向上に直結しますメディカルチェックこそ、今求められていることです。
当院のアスリート外来では、多くのトップアスリートを日々の診療とメディカルチェックで支援させていただいています。
私どもの取り組みとシステムの全国規模の普及を望んでいます。