山本義徳(やまもと よしのり)正しいウエイトトレーニングの理論と実践を学んでパワーアップ(2)

2013.10.25

1回目では、基本的なウエイトトレーニングの理論や知識を解説しましたが、今回は応用編としまして実際、トップアスリートが導入しているウエイトトレーニングに関しまして解説します。

―― トップアスリートが導入するウェイトトレーニングのテクニック

ウェイトトレーニングには様々なテクニックがありますが、今回はトップアスリートが導入している特別な方法をご紹介しましょう。

■チェーンウェイトを使ったトレーニング

バーベルやダンベルしかなかった数十年前に比べ、最近は様々なメーカーのトレーニングマシンがジムに置かれるようになりました。バーベルやダンベルのことを「フリーウェイト」と呼びますが、トレーニングマシンはフリーウェイトに比べて、どのようなメリットあるいはデメリットがあるのでしょうか。

◆フリーウェイトとマシンの違いとは

バーベルやダンベルの場合、動作の可動域における角度によって、負荷が変わってきます。スクワットやベンチプレスの場合、深くバーベルを下した位置では重く感じられ、トップポジションに近づくに従って、軽く感じられるようになります。
しかしトレーニングマシンの場合、カムの形状が工夫されているため、可動域全般に渡って同じような負荷をかけることができます。
つまりフリーウェイトでは関節角度によって十分に鍛えられない角度が存在しますが、トレーニングマシンの場合は関節角度全般を強化することが可能なのです。

またトレーニングマシンの場合、軌道が完全に固定されているため、動作を容易に行うことができます。ベンチプレスを初めて行ったときには、バーがグラグラして真っ直ぐ持ち上げられなかった経験のある方は多いのではないでしょうか。そのためトレーニング初心者においては、トレーニングマシンを使うことによって動作を学習する必要なく、容易に筋肉を鍛えることが可能となります。

ただしその「グラグラする」ということは、トップアスリートの場合、逆にメリットに変貌するのです。フリーウェイトを行う際には、動作を安定させるために、ターゲットとする筋肉以外にも様々な筋肉群が使われることになります。それらの筋肉群のことを、特別に「スタビライザー」と呼びます。
競技中はもちろん、日常生活においても私たちの身体は単独の筋肉だけでなく、さまざまな筋肉が同時にスタビライザーとして働いています。ですから逆に言うと、マシンによるトレーニングは日常生活や競技とはかけ離れた動き(単独の筋肉のみを動かす)ということになり、フリーウェイトのトレーニングは日常生活や競技における身体の使い方に近い動きを鍛えることができるということになるのです。

またフリーウェイトのグラグラした動きは、より多くのモーターユニットを動員することにも繋がります。モーターユニットとは「1本の神経と、それが支配する筋繊維群」だと理解してください。固定されていないフリーな動きは、多くの神経を活動させることになるため、それだけ多くのモーターユニットを動員することになり、それはより多くの筋繊維を働かせるということになるのです。

―― フリーウェイトのデメリットを解消するために

このようなフリーウェイトのメリットを活かしたまま、動作可動域全般に渡って負荷を均等に与える方法、それが「チェーンウェイト」です。これは太い鎖でつくられたウェイトで、片方の端がカラーになっています。それをバーの両端に装着するのです。

チェーンウェイトを装着したバーを持ち上げてみましょう。バーが地面から離れるに従って、同時にチェーンも離れていきます。それにより、バーにチェーンの重さが加わっていきます。つまりチェーンウェイトを装着することによって、バーの位置が高くなるほど、全体の重量が重くなってくるわけです。

ベンチプレスやバーベルカールを行う場合、挙げるに従って軽く感じられるはずです。しかしチェーンウェイトを使えば挙げるに従って重くなってくるため、トップポジションになるまで継続して強い負荷を与えていくことが可能なのです。

またベンチプレスで胸までバーを下ろすと肩が痛い、あるいはスクワットで深くしゃがむとヒザが痛いということがあります。しかしチェーンウェイトを使った場合はボトムでの負荷が軽いため、怪我をしているときでも痛みをそれほど感じずに行うことができるのです。
なおチェーンを装着することにより、バーはグラグラしやすくなります。つまりスタビライザーも、より強力に刺激されることになります。

◆チェーンウェイトの実際の効果

では、実際の効果を見てみましょう。チェーンウェイトは理論的に効果があるというだけでなく、アスリートの競技能力向上にも実は非常に効果的なのです。それを示した実験を紹介しましょう。

1. 女性バレーボールandバスケットボール選手を対象に行った実験(Burnhamら)
普通のバーベルだけのトレーニングを行わせた群と、チェーンを使ったトレーニングを行わせた群とに分け、16回のベンチプレスのセッションを行った。
普通の方法では11.8%の筋力向上がみられたが、チェーンを併用したトレーニング群では17.4%の筋力向上が達成できた。

2. ベンチプレスを挙げるときのスピードを計測した実験(Bakerら)
普通のバーベルによるベンチプレス群と、バーベル+チェーンによるベンチプレス群に分け、それぞれベンチプレス3回*2セットを行わせた。
ベンチプレス+チェーン群のほうが、普通のバーベル群に比べ、10%のスピード増加が観察された。

3.1-AAのフットボールプレーヤーに7週間チェーン・トレーニングを行わせた実験(Ghigiarelliら)
18~30歳の健康な1-AAディヴィジョンのフットボールプレーヤー36名を3つの群(バーベルのみ、バーベル+ゴムバンド、バーベル+チェーン)に分け、7週間のヘビートレーニングを行わせた。
チェーンは9%、ゴムバンドは10%の増加だったのに対し、バーベルのみの群は5%の増加だった。

チェーンの代わりに強力なゴムバンドも利用可能です。しかしチェーンは実際の重量を測定可能ですが、ゴムバンドの場合、どれくらいの負荷が加わっているかが判然としません。また半永久的に使用可能なチェーンに比べ、ゴムバンドは突然切れてしまうことがあり、危険性がゼロではありません。安全かつ確実なトレーニング効果を得るためには、チェーンの使用をお勧め致します。

―― 追い込むためのテクニック

ベンチプレスを行っているとします。前回のトレーニングでは8回が上がりました。だから今回は何としても9回上げたい。そして挑戦。難なく8回はクリアできた。でも9回目ができるかどうか分からない・・

◆パーシャルレップス法

このような時に有効な方法の一つが、「パーシャルレップス法」です。ベンチプレスの場合で言えば、胸までバーを下ろさず、半分だけ下ろして動作を継続するのです。この方法だったら、プラス数回はできるのではないでしょうか。
8回で止めてしまう場合よりも追い込むことができますし、9回目にチャレンジして胸の上でつぶれてしまう危険性を冒す必要もありません。

このパーシャルレップス法はスクワットやバーベルカールなど、様々なエクササイズで応用することが可能です。特に家でトレーニングされているような方の場合、ベンチプレスやスクワットでつぶれてしまった場合、非常に危険です。「あと1回できるかどうか、アヤシイな」という場合には、無理してチャレンジするのではなく、パーシャルレップス法を使って無理なく追い込むようにしてください。

◆レストポーズ法

動作の途中で短いインターバルを入れ、追加で数レップスを繰り返すという方法もあります。このテクニックを「レストポーズ法」と呼びます。
まずは無理なくできるところまでレップスを行い、「あと1回できるかどうか分からない」ようになった時点でバーをラックに戻し、20秒ほどの休みを入れます。そして筋肉が回復したら、バーを外して再開するわけです。これを何度か繰り返し、20秒ほど休んでも、もう1回もできないという時点に達したところで終了とします。

レストポーズ法においては、トータルのレップス数を少なめに設定して、高重量を扱うようにするほうが効果的です。マックスの90~95%程度の重量を扱い、まず2~3回行って数十秒休み、また1~2回やって数十秒休み、さらに1~2回・・といった要領で、トータルで10レップス程度を行うとった要領です。

なおインターバルを長くしてしまうと、いくらでもレップスができてしまいます。それでは意味がなく、ただの「短インターバルでのセット法」になってしまいます。レストポーズ法では、インターバルはせいぜい20~30秒以内に収めるようにしてください。

レストポーズ法は非常に強度が高いため、やり過ぎは禁物です。多くの場合、1セットで十分です。また毎週のように行うのもオーバーワークにつながりますから、数週間に1回程度の頻度で行うようにしましょう。

◆クラスター・トレーニング

レストポーズ法に似たやり方で、クラスター・トレーニング(Cluster Training)という方法があります。レストポーズ法の場合はインターバルを入れつつ、すべてをギリギリのレップスだけ行います。それに対してクラスター・トレーニングでは余裕を持って行い、意識的に短いインターバルを挟みながら行うというものです。

具体例を挙げましょう。クラスター・トレーニングが特に有効なエクササイズとして、デッドリフトが挙げられます。さてデッドリフトのマックスが200kgで6回という人の場合は、このようにクラスター・トレーニングを行います。

■クラスター・トレーニングの例

1.210kgで2回 (連続ではたぶん4回できるが、2回で止める)
2.5~10秒ほどインターバルをとり、ストラップを締めなおして、また2回
3.5~10秒ほどインターバルをとり、ストラップを締めなおして、また2回
4.10~15秒ほどインターバルをとり、ストラップを締めなおして、1回
5.10~15秒ほどインターバルをとり、ストラップを締めなおして、1回

つまり最初のほうは余裕を持って行い、レストポーズ法よりも短いインターバル(呼吸と気合を整えるくらい)をとったら、すぐ次のレップスに移るのです。そして1レップもできなくなったら、そこで終了とします。

使用重量としては、だいたいギリギリ3~4レップスできるくらいのウェイトで設定するといいでしょう。
エリートレベルのラグビープレーヤーを対象に行われた実験では、瞬間的なスピードとパワーを向上させるためには、通常のトレーニングよりもクラスター・トレーニングのほうが有効だったとのことです。壁を破れなくて困っている方は、ぜひ試してみてください。

ウエイトトレーニングは、一人で行う場合はリスクもあり十分 安全性を確保して行う必要があります。最新の研究では様々な手法も開発されています。
指導者やアスリートは絶えず 最新の知見に目を向け できれば論文にも目を通してエビデンスがあるウエイトトレーニングの実践をお勧めします。

山本義徳(やまもと よしのり)

1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。

◆ボディビル歴
・1991年東京都パワーリフティング大会優勝
・オッシュマンズベンチプレス大会15回連続優勝(最高記録250kg)
・1994年東京都ボディビル選手権優勝
・1995年アジアボディビル選手権3位(ライトヘビー級)
・1998年NPCアイアンマン・アイアンメイデン(ボディビルの全米大会)ライトヘビー級にて日本人初の優勝
・2005年NPCトーナメント・オブ・チャンピオンズ ヘビー級にて日本人初の優勝

◆著書
・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
・サプリメント百科事典(辰巳出版)
・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
など30冊以上

◆指導歴
1992年~1996年:池袋ユニコーンにて日本ボディビル連盟指導員として
1997年よりパーソナルトレーナーとして独立。

◆指導実績
・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。